2019年9月24日
全世代型社会保障制度の実現に向けて、自民党は、年金を受給できる年齢の選択肢の拡大や、高齢者の就業機会の確保などについて検討を進めることにしています。
全世代型社会保障制度の実現に向けて、政府は先週、新たに設置した検討会議の初会合を開き、社会保障制度全般にわたる改革の議論を始めました。
これに合わせて自民党は24日、岸田政務調査会長を本部長とする「人生100年時代戦略本部」の会合を開き、検討を進めることになりました。
戦略本部では、
▽年金を受給できる年齢の選択肢を70歳以降にも広げること、
▽高齢者の就業機会を確保するため雇用制度を柔軟化すること、
▽健康寿命を延ばすための病気の予防、などについて議論することにしています。そして年内に中間報告をまとめ、政府に提言することにしています。
出典:NHK NEWSWEB 全世代型社会保障 年金受給「70歳以降」選択肢など検討へ 自民
人生100年時代を鵜呑みにしてはいけない!年金問題の本質とは
「人生100年時代」とは、30年後、40年後の近未来において、100歳まで生きることがスタンダードになる時代が到来するかのフレーズに聞こえます。
年金問題において「人生100年時代」とは、年金問題の検討にあたり好都合な条件と言えます。
厚生労働省は、2018年に「長生き見込み」というデーターを提示しました。
現状65歳まで生きれば男性の場合、4%の確率で100歳に到達します。
40年後の推計において、
65歳まで生きれば、男性の場合、6%の確率で100歳に到達するものと推測されています。
65歳の男性が100人いて、100歳まで生きる人は、たった6人しかいません。
40年後においても、100歳まで生きることは希なことなのです。

確かに100歳を迎える高齢者は、年々増えていくことでしょう。
2019年の現時点で7万人を突破しています。
7万人の内、88%が女性と言われています。男性は12%程です。
現状において100歳以上の男性は、1万人以下の8千人レベルしか全国にいません。
40年後においても、1万人台のレベルと推測されます。
「人生100年時代」とは、100歳まで生きることがスタンダードと思える印象を国民に与えます。
そう言った意味で、「人生100年時代戦略本部」とは、国民への印象操作と思える呼称です。
「人生100年時代戦略本部」と命名した時点で、全世代型社会保障を抜本的に見直す気がないことが現れています。
実際、戦略本部とは名ばかりで、具体的に提案されているのは、70歳以降の年金受給の選択肢を安易に増やす内容です。
年金問題の本質は別のところにあります。
いわゆる年金2000万円報告書問題
現行の年金制度では、条件のいい厚生年金のモデルケースで、平均的な支出をした場合に2,000万円の自助努力が必要なことを民間有識者は示しました。
国民が思い描く老後生活を営むには、相当の自助たる資金が必要となることです。

所得代替率50%の維持で老後生活の不安が解消されるか?
5年に1度の年金の財政検証では、所得代替率50%を維持できるかが焦点となりました。
所得代替率50%の生活水準とは、現行の生活保護レベル又はそれ以下です。
所得代替率の下がり具合によっては、生活保護との整合性が取れなくなります。

フリーランスや非正規社員等の働き方に現行の年金制度は対応していない
厚生年金ばかりが注目されましたが、国民年金の場合はより厳しい状況となります。
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自民党の提案では、根本的な問題が一切解決されません。
政府や自民党に都合よく使われる「人生100年時代」
「人生100年時代」というフレーズを、なぜ政府や自民党は好んで使うのでしょう?
一言でいえば、現行の「100年安心」と言われている年金制度を維持する為に他ありません。
「2000万円報告書問題」や5年に1度の「年金財政検証」の結果を踏まえれば、現行の年金制度は国民の思惑とはかけ離れ、納得した説明がつきません。

現行の年金制度で65歳になった時、自分がいくら貰えるのか?
予測不能なマクロ経済スライドがある以上、だれ一人として正確な金額は言えないことでしょう。
40代以下であれば、年金の見込額すら想定が困難です。
50代であっても、年金定期便等を見れば「受給見込額」は把握できますが、それが実際に65歳に貰えるとは限りません。
国民が年金制度の実態を把握できていない為、声を荒げることは少ないものと思われます。
高齢夫婦の「モデルケース」や「所得代替率」、予測不能な「マクロ経済スライド」等、年金問題における現実問題を国民が気付かないように欺いているとしか思えません。
「人生100年時代」は、現状の年金モデルケースを変えるのに好都合です。
60歳まで40年間サラリーマンとして働いた夫(厚生年金)と専業主婦(国民年金)の組合せが想定されています。
例えば、
モデルケースを「65歳までの45年間」及び「70歳までの50年間」働き続け、厚生年金を掛け続ければ年金受給額の見栄えは良くなることでしょう。
受給開始年齢は現行で60歳~70歳で選択できますが、60歳~64歳は割り引かれ、65歳を超えると割り増しされます。
65歳を100%とすれば、60歳では70%、70歳では142%となります。
現行制度でも70歳で年金受給開始をすれば、65歳に比べ1.42倍の年金が貰えます。

これが75歳になれば、現行制度水準で増額(月0.7%増)すると仮定すれば1.84倍までアップします。
前提である「人生100年時代」に偽りや嘘がなければ、長く働くのもいいでしょう。
しかしながら「人生100年時代」とは、近未来においても現実的なものではなく、人生の長さを偽った表現です。
国民に間違った人生の尺度を持たせ、長く働くよう誘導しているように思えます。
健康寿命が延びても受入れ企業はあるのか?
現状における男性の健康寿命は72歳です。
日常的に介護等に依存せず、自分の心身で生命維持し自立した生活ができる期間です。
戦略本部でも健康寿命を延ばす検討が議題に上がっています。
実質、労働が可能なのは健康寿命と言えます。
仮に健康寿命まで働けるとしても、受け入れる企業はあるのでしょうか?
「高齢者の就業機会を確保するため雇用制度を柔軟化する」と掲げていますが、健康寿命に近い高齢者を雇う企業は、慢性的な人手不足の企業を除き少ないものと思われます。
十分な収入を得られなければ、生活費を年金受給で補うことでしょう。
60歳で一度定年し再雇用する場合は、現役世代の5~7割程度の収入が一般的と言われています。
65歳定年制における60歳で一度定年し再雇用するケースは、その企業で働き定年を迎えた既得権で貰える報酬と言えます。
終身雇用が崩壊した現状においては、恵まれた環境と言えます。
この既得権なしに、別の企業で同じくらいの収入を得るのは困難と思えます。
現役世代よりも低い収入で、70歳以降の年金受給開始を選択するには金銭的な体力も必要です。
高齢者の雇用先や待遇面が整備されない中で、仮に健康で働けたとしても、70歳以降の年金受給開始を選択できる者は条件のいい少数と言えるでしょう。
国民を一律視した考えでは年金問題は解決しない
1970年代、日本の人口が1億人に達しようとする中、「一億総中流」という日本国民の大多数が中流意識を持っていた時代があります。
この国民を一律視した考えは「一億総活躍社会」という政府のフレーズにも現れています。
「一億総中流」から約50年、バブル崩壊やリーマンショック、就職氷河期や失われた20年(30年)、非正規社員、終身雇用の崩壊・・・・
日本は格差社会となり、仕事や生活、結婚を含め人生観等が多様化しています。
一律のモデルケースでは、議論できない状況になっています。
従来の一つの厚生年金モデルではなく、様々なモデルケースを想定した議論が必要です。
「国民皆年金制度」
年金制度の加入は国民皆に義務付けられ、文字通り国民皆の問題です。
自民党の提案は、既存の厚生年金制度を延命させるだけの内容であり、全ての国民に寄り添った提案とは言い難いものと思われます。