2019年5月22日に開催された「金融審議会(市場ワーキング・グループ第23回)」において、「高齢化社会における資産形成・管理報告書(案)」が提示され、その内容に波紋が広がっています。
この会議の目的は、人生100年時代に向け長い老後を暮らせる蓄えにあたる「資産寿命」をどう伸ばすかという問題について議論されています。
波紋を広げているのは、報告書(案)に掲載されている「(3)公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」という部分です。
(3)公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク
人口の高齢化という波とともに、少子化という波は中長期的に避けて通れ
ない。前述のとおり、近年単身世帯の増加は著しいものがあり、未婚率も上
昇している。公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続ける
ことは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく
以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい。
今後は、公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある。年金受
給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して老後の収入が足りないと思
われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再
点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」
の充実を行っていく必要があるといえる。
「今後は、公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある。」以降、自助努力の必要性を訴えています。
そもそも年金制度の設計をしてきたのは国民ではなく政府です。
ある意味、国民は政府に言われるがままに従ってきました。
新たな制度改革を導入するので国民に協力を求めるのであれば、まだ納得の余地があります。
国民に自助努力を求めては、少子高齢化による財政問題を放棄し、その問題を国民や企業に押し付けてるよう感じられます。
自助努力の方法としては、
②就労継続の模索
③自らの支出の再点検・削減
④保有する資産を活用した資産形成、資産運用
「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい」と書かれています。
これは、将来の年金受給額が不透明であることを意味しています。
先が見えない中、自助努力をするにも限度があります。
①将来の年金受給額が不透明なのに、自分自身の状況を「見える化」してどうするのでしょう。
②就労継続とは70歳なのでしょうか?企業において70歳までの雇用体制はまだ整っていません。
③支出の再点検はできますが、将来の年金受給額が不透明なので削減是非の判断がつきません。
④年金の運用を行なっている年金積立金管理運用 独立行政法人(GPIF)が、2018年第3四半期の運用で、14兆8,039億円の損失を出したと発表しています。政府において資産運用で損失を出している現状、個人に資産形成や資産運用を勧めるのは余りにも無責任です。
今回の報告書は、あくまでも(案)だと言うことも理解しています。
「年金」に関しては、厚生労働省の所管です。
金融庁の立場で、「資産寿命」を伸ばす観点で自助努力が必要と言及したことでしょう。
ただ、公的年金制度において、国民に不安を煽る発言を余り耳にしたことはありません。
正式な報告書にも、今回波紋を広げた文言を記載するのか見ものです。