2021年2月6日 TOKYO MX
「モーニングCROSS」「オピニオンCROSS neo」で、株式会社キャスター取締役COO石倉秀明さんが「非正規雇用の格差」について述べました。
◆非正規は正規に比べ、待遇や給与面に格差が
田村厚生労働大臣は、営業時間短縮に協力した首都圏1都3県の大企業飲食業などが対象の最大全額への雇用調整助成金助成率引き上げに関し、「大企業の負担分もなくなるので非正規従業員を含めて休業手当を出してほしい」と呼びかけ、「雇用調整助成金を活用して雇用を守ってほしい」と改めて強調しました。
非正規の問題として、正規に比べ待遇や給与面などで差がありますが、石倉さんは「将来的にもらえるお金や補償、セーフティネットにも差があるので、両方セットでやらないといけないのではないか」と指摘します。
現行の公的年金制度は、いわゆる2階建てで、1階はみんなが入っている国民年金。2階は会社員や公務員が国民年金にプラスして入る厚生年金で、いわゆる第2号被保険者とされています。自営業やフリーランス、従業員ではない人は国民年金のみの第1号被保険者で、これは彼らが何歳まででも働けるからという前提。一方、第2号被保険者は定年があり、「高齢になったときに入るお金を増やすために厚生年金がある」と石倉さんは解説。
なお、厚生年金の有無で年金額にどれ程の差があるかと言えば、収入によって違いはあるものの、厚生労働省が出している平均値を見ると2倍以上。MCの堀潤も「国民年金だけではしんどいイメージがある」と言います。
◆非正規、もう1つの格差を埋めるには…
厚生年金の対象となるのは、フルタイムの正社員か月の4分の3以上働いている人でしたが、2016年に改正。従業員500名を超える会社は「週の労働時間が20時間以上」、「雇用期間が2ヵ月超」、「賃金月額が8.8万円以上(年収106万円以上)」、「学生ではない」といった条件を満たせば正社員でなくても厚生年金に入れることに。しかも、2022年10月からは従業員数100名超、2024年10月からは50名超に広げられるなど少しずつ改善されています。
しかし、これでどのぐらい人が厚生年金に入れるかというと、現状は非正規の約70%、およそ1,500万人をアルバイト・パートが占めるなか、1,000万人程度が非対象者。ちなみに2016年の改正で対象となったのは40万人程度と言われており「全然足りない」と嘆く石倉さん。
非正規は仕事が失われやすい立場にあり、なおかつ賃金も安い上に将来的にもらえるお金も少ないだけに、石倉さんはそれらを改善し「(厚生年金の)全員適用まで目指してもいいのではないか」と主張します。
ただ、厚生年金に入るとその分手取りが減ってしまいます。そのためセットで考えていかなければいけないのは「同一労働同一賃金の達成」、「最低賃金の継続的な引き上げ」。そして、厚生年金の全員適用まで考えるとなるとさらなる問題も。
現状では、俗に言う第3号被保険者や専業主婦などの扶養控除対象者は税金や年金を免除。また、彼らを雇っている事業者も年金を免除され、さらには社会保険の負担なく人が雇える仕組みになっているため、その撤廃を訴えます。その他にも個人事業主やギグワーカーまで適用を拡大するか、はたまた働き終わってから次に働くまでの時間を考えるインターバル規制など問題は山積み。
共に考えていくべきこれらの課題を挙げつつ、石倉さんは改めて「今ある待遇と将来的な待遇、両方を考えた設計が大事」と訴えていました。
「今ある待遇」と「将来的な待遇」
非正規の「今ある待遇」は、正規に比べ待遇や給与面などが劣ることは、現実をみれば理解できることでしょう。
「将来的な待遇」とは、非正規の年金問題と言えます。
番組では、厚生年金の適用枠を広げる意見が出されていますが、そもそも厚生年金の制度自体が破綻しているよう思われます。
「年金2000万円問題」
収入を年金のみに頼る高齢夫婦のモデルケースでは、20~30年間の老後を生きるために約2,000万円の老後資金が必要というものです。
平均的な実収入21万円とは、
厚生年金の夫(15.5万円程)+国民年金の妻(5.5万円程)の組合せです。
ここで注目するのは、厚生年金の夫です。
夫は、平均的年収で20歳~60歳までの40年間会社に勤め厚生年金に加入しています。
平均年収は、賞与を含む月額換算が42万8000円で、単純に年収換算すると513万6000円(賞与含む)です。(金額は最新のものではありません)
この年収額は、40年間の平均収入です。
大雑把ですが、入社時は年収200~300万円とすればピーク時は700~800万円の年収といったイメージでしょうか。
この状況で、年金月額は15.5万円程になります。
一方、文化的な最低限度の生活と言われる生活保護は、自治体によって多少異なりますが、例えば札幌市の場合、単身世帯のモデルケースで11万円~12万円程です。
生活保護の場合、
・住民税、所得税、固定資産税などの税金
・国民年金保険料
・国民健康保険料、国民健康保険税
・介護保険料
・雇用保険料
・医療費
・介護サービスの利用料
・NHK受信料
等が、支払い免除や無料となります。
金額だけを比較すれば、平均的な厚生年金の夫の方が優位ですが、実質面で見れば生活保護費の方が優位な感が否めません。
現状の平均的な厚生年金では、実質的に生活保護レベルと言っても過言ではありません。
非正規の人が厚生年金に加入したとしても、モデルケースの夫には敵わないことでしょう。
有利と言われる厚生年金ですら、このあり様です。
国民年金だと、どうなるのでしょう?
辛坊治郎キャスターは、2019年6月15日の報道番組で、厚生年金ではなく国民年金について言及しています。
”2,000万円の赤字どころじゃなくて5,000万、6,000万の赤字”
その本質的なところがすっぽり抜け落ちていることを指摘しました。
非正規雇用労働者が全体の37.3%とのデータを示し、
「非正規雇用の労働者、これだけ増えていて、そのみなさんは退職金もほぼない、かつ国民年金だとすると先ほどのモデル世帯の年金収入にはとても届かない」と解説しています。
現行の年金制度は、結婚や正社員の終身雇用等が前提の制度であり、今の時代背景にそぐわないものと思われます。
国民の自助努力にも限界があります。
国民意識や働き方等も多様化しており、年金制度は抜本的な見直しが必要な時期に来ています。