大統領在任中に死刑制度の廃止を主導したモンゴルのエルベグドルジ元大統領が来日し、東京都内でインタビューに応じた。国際的に死刑廃止が進む中、日本が制度を維持していることについて「情報をもっと公開すれば、死刑を容認する世論は変わってくる」と述べ、手続きの透明化とオープンな議論を呼びかけた。
エルベグドルジ氏はモンゴルの民主化活動に関わった後、首相を経て2009年に大統領に就任した。在任中に死刑確定者を終身刑に減刑し、死刑の執行停止を宣言。法改正により、17年にモンゴルの死刑制度を廃止した。
死刑の執行停止を宣言した当初は国民の反発も強かったが、情報公開と国民的な議論を重ねたことで、世論の風向きは次第に変化していったという。エルベグドルジ氏は「廃止後、犯罪も減った。厳罰があることが必ずしも治安の維持につながるわけではない」と述べた。
また、死刑に代わる終身刑のあり方について、「被害者遺族のためにも、死刑で命を絶つより、生かして毎日自分の犯した罪を反省させる方が償いになる」との考えを示した。
日本政府は制度維持の理由として「国民の8割が死刑を容認している」とする世論調査の結果を挙げている。これに対し、エルベグドルジ氏は「執行のプロセスや、それに関わる人の精神的負担などを知れば、考えは必ず変わってくる」と強調した。
死刑制度を巡っては、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、死刑制度を廃止した国は事実上も含めると145カ国に上る。経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国のうち、死刑制度を維持しているのは日本、米国、韓国の3カ国のみだ。日本では未執行の期間が近年では異例の長さとなる3年に迫っている。
エルベグドルジ氏は「死刑は国家による殺人であり、人道にも反する。日本にとって今こそ制度の是非を深く議論する機会だ」と訴えた。【飯田憲】
出典:2025/5/24 毎日新聞
日本の死刑制度を巡る議論は、国民の間で意見が分かれる問題です。
これを考える際に、クマの射殺をめぐる議論と似た構造があるよう思えます。
近年、人里に出没するクマによる被害が報告されるたびに、「駆除はやむを得ない」という意見と、「殺すのはかわいそうだ」という意見が対立します。
被害にあった人やその家族から見れば、安全を守るために駆除は必要だと感じるでしょう。
しかし、一方で、クマを守る視点から「人間の側が生息域を広げたのでは?」という考え方もあり、社会全体としてどう対応すべきか、簡単に結論を出せるものではありません。
死刑の問題もこれと似ています。
犯罪被害者や遺族の立場からすれば、加害者への厳罰を望むのは理解できます。
しかし、社会全体の視点からは、「国家が人の命を奪うことは許されるのか?」という議論もあります。
このように、被害を受けた側の気持ちと、制度や倫理の問題が絡み合い、賛否が分かれるのでしょう。