岸田首相の賃上げ演説で追い詰められるベテラン社員

独り言

「物価上昇を上回る賃上げが必要」

1月23日に開会した通常国会の施政方針演説で、岸田文雄首相はそう強く訴えました。

同日、春闘も事実上スタート。連合の芳野友子会長と会談した経団連の十倉雅和会長は「構造的な賃金引上げを目指した企業行動の転換を実現する正念場」とコメント。十倉会長は昨年来「一時的給付も良いが、できるだけベースアップを中心にやってほしい」とも発言しています。

賃上げが2023年、多く企業にとって最も重要なテーマのひとつになるのは間違いありません。先日は「ユニクロ」「ジーユー」などを展開するファーストリテイリングが新入社員の初任給を現在の25万5000円から30万円に引き上げることを発表、追随する動きが広がるどうかにも注目が集まっています。

日本の多くの企業では長年、新卒採用時の初任給や昇給が抑えられてきました。賃上げは若手社員の報酬の底上げを中心に手厚く行われることになることでしょう。

ただ、企業が賃上げに取り組むなら、“トレードオフ”もありえます。初任給が上がれば、年功序列の企業であれば負担する人件費総額は大きく変わります。仮に3万円の初任給の増加にするとして、それが定年までの給与カーブで毎年積まれていきます。

そこで各社が取り組みを迫られるのが、年功序列の廃止です。そうした企業では年齢を重ねた社員の報酬が高くなります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査の推移を見れば、入社時と勤続30年時点ではだいたい2倍ほどの処遇差があり、かなりのカーブがあることがわかります。

若手社員の賃上げを行いつつ人件費の増大を抑えるには、勤続年数の長いベテラン社員の報酬を見直す必要が出てくるというわけです。

2023年1月24日 東洋経済オンライン

バブル期以降、経済が低迷すると「年功序列」が企業の成長を阻害していると言われてきましたが、今でもおよそ半数の企業がこの人事制度を維持しています。

年功序列に相反するのが「成果主義」や「能力主義」と言えます。

業績や能力の高さで役割や報酬が決まります。

企業にしてみれば、成果のない社員に払っていた賃金を、成果のある社員に再分配でき、名目的な賃上げを実現できます。

年功序列では、成果を出しても昇進・昇給に反映されず、成果を出さなくても昇進や昇給が保障されています。

これでは若手社員のモチベーションは下がります。

なぜ企業が年功序列から成果主義に転換できないのでしょう?

・社員間に競争が生まれ、競争についていけない社員はモチベーションや賃金が低下する。結果的に会社を退職する可能性がある。(離職率が高まる)

・社員が評価にばかり気に掛け、評価に直結しない仕事を疎かにする。

・人事評価が難しい。適正な評価が行われなければ、逆に社員のモチベーション低下を招く。

・成果が見えやすい部門(例えば営業)と見えにくい部門(例えば総務)がある。

成果主義にも課題が多く存在します。

昭和の時代は、年功序列と終身雇用がセットでしたが、現在はリストラ等、終身雇用は崩壊しており年功序列のメリットは薄れています。

早期退職も一般化され、定年まで働く人を確保する年功序列は必要なくも思えます。

社員の意識も変化しており、定年まで同じ会社にいることに拘らず、条件がよければ転職を望む人も増えてきました。

やはり年功序列は古い人事制度と思われますが、成果主義にするのであれば諸課題をクリアーしなければなりません。

年功序列が廃止すされ、追い詰められるのは勤続年数の長い40代~50代のベテラン社員でしょう。

年功序列は、言わば「先輩」と「後輩」の関係と言えます。

後輩は先輩を敬い、先輩の言うことを聞き入れる風潮があります。

成果主義では、年功序列での先輩と後輩の関係は薄れていきます。

今まで動いてくれた後輩も、先輩の頼みを快く聞いてくれるかは疑問です。。

時が経てば、実力のない先輩は後輩の上司に従うことになります。

業績が悪化している企業であれば、如実にその影響を受けることでしょう。

 

一早く年功序列にメスを入れた「LIXIL(リクシル)」は、ニューライフと称し希望退職を集い、アジャイルな組織転換を実施しています。

アジャイルな組織転換とは、エンドユーザーのニーズを理解し、その変化に機動的に対応できる、顧客志向の組織へと生まれ変わることです。

「高い役職にある人だけがリーダーということではなく、誰もがリーダーになる能力を有しています。どのような役職についているかで、貢献度が決まるわけではないのです。役職を気にすることで活躍の場を限定することなく、誰もが実力を発揮できる環境を作ることを目指しています」

40代、50代で役職頼りに仕事をしてきたベテランにとっては、会社は居心地の悪い空間となることでしょう。