複数税率による会計の煩雑化!中小企業7割が軽減税率制度の見直し求める

独り言

2019年11月13日

飲食料品の消費税率を8%とする軽減税率の制度について、中小企業の70%以上が見直しを求めているという調査結果がまとまりました。

この調査は中小企業の経営者でつくる「中小企業家同友会全国協議会」が先月、全国の中小企業1万4000社余りを対象に行い1300社余りから回答を得ました。

この中で、酒類と外食を除いた飲食料品の税率を8%に据え置く軽減税率について尋ねたところ、「再検討すべき」が74.3%となり、「現行通りでよい」の14.1%を大きく上回りました。

再検討すべきとする理由については、税率が複数になり会計が煩雑となったことや閉店前のいわゆるレジ締め作業に時間がかかりすぎることなどがあげられています。

中小企業家同友会では「異なる税率があることが、中小企業にとっては負担になっていることが明らかになった。調査結果を踏まえて望ましい税のあり方を議論し、政府に制度の見直しを求めていきたい」と話しています。

出典:NHK NEWSWEB 軽減税率「中小企業の7割が見直し求める」経営者調査

消費税を「負担」するのは消費者ですが、消費税を「申告・納付」するのは事業者です。

事業者である中小企業の7割以上が、軽減税率制度の見直しを求めています。

理由は、消費税の申告と納付の為の会計処理が煩雑だからと言えます。

記事では「レジ締め作業に時間が掛かる」等が紹介され、日々の会計処理の手間を訴えられているのでしょう。

軽減税率の導入による会計処理上の手間とは?

飲食店である「ラーメン屋」を例に、一緒にイメージしてみましょう。

税制上の細かな点は省きますので、あくまでもイメージとして捉えて下さい。

事業年度及び暦年において、課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務が発生します。

逆を言えば、課税売上高が1,000万円以下の場合は免税となります。

ラーメンが仮に1杯1,000円とすれば、年間1万杯、1日当たり約27.4杯となります。

イメージとしては、1日の平均売上が約27,400円を下回れば「免税事業者」となります。

個人事業主としてラーメン店を営む方の中には、消費税が免税となる方もいることでしょう。

ここでは5年間、常に年間1,000万円以上の課税売上高のある店とします。

ラーメン屋は、外食なので軽減税率の対象ではありません。

標準消費税率10%なので、1杯1,000円のラーメンであれば1,100円をお客さまに請求します。

事業者が支払う消費税の納税額が100円なら話は単純なのですが、そうではありません。

ラーメン屋は、ラーメンを作るために材料を購入します。

その材料には、既に消費税が掛かっています。

例えば、麺を生産する事業者、麺を卸売りする問屋等があれば、消費税は二重、三重と税が課されることになります。

消費税は、二重、三重に課されることのない仕組みです。

例えば、一杯1,000円のラーメンの仕入れが700円としましょう。

仕入れは、麺やトッピングする具材、スープの素になる鶏がら等の食品が多いことでしょう。

仕入れの700円が全て食品とすれば、既に56円の消費税を支払っています。

ラーメン屋は、お客様が負担した消費税100円の内、仕入れで支払った56円を差し引いた44円を申告し納付することになります。

ラーメン屋では、ウーロン茶等のソフトドリンクやビールを提供する店も多くあります。

ウーロン茶は軽減税率8%、ビールは酒類なので標準税率10%で仕入れています。

従来であれば、税率は一律だったので仕入れの合計に8%を掛ければよかったのですが、軽減税率導入後は、仕入れを8%と10%に仕分けする必要があります。

 

次に「簡易課税」について説明します。

従来から消費税の計算方法には、「簡易課税制度」と呼ばれる「みなし仕入率」を用いた方法があります。

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は「簡易課税制度」を選択できます。

消費税の納付税額=課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額✕みなし仕入率)

これだと、仕入れを仕分けする必要はありません。

但し、事前に「消費税簡易課税制度選択届書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

「みなし仕入率」は、6つの事業区分があり、ラーメン屋等の飲食店等は「第四種事業」に分類され、「みなし仕入率」は60%となります。

事前に書面を提出しても、実際の課税売上高が5,000万円を上回れば、この制度の利用はできません。

中小企業において、簡易課税制度がどれだけ利用されているか存じませんが、課税売上が5,000万円であれば、個人事業主であれば利用するケースは多いものと思われます。

 

消費者から見れば、軽減税率8%は従来の消費税率8%と変わらないよう思えるでしょう。

従来(令和元年9月30日まで)の消費税8%の内訳は、消費税率(国税分)6.3%と地方消費税率1.7%で併せて8%でした。

令和元年10月1日からの軽減税率も8%ですが、内訳が消費税率(国税分)6.24%と地方消費税率1.76%と微妙に異なります。

(標準税率10%の内訳は、消費税率7.8%、地方税率2.2%です)

事業年度の開始が10月1日の企業以外は、「従来の消費税率8%」と増税後の「標準税率10%」、「軽減税率8%」の3つの仕分けが必要となります。

理由は、国税分と地方税分に分けて納付税額を計算しなければなら為です。

初年度一回だけの話かもしれませんが、0.06%の違いはどうにかならなかったのでしょうか?

一体どこまで納税者に手間を取らせればいいのでしょう。

簡単に説明したので「言葉足らず」の面もありますが、会計処理上の煩雑さがイメージできれば幸いです。(この記事は、国税局のHPを参考にしています。見解や詳細等が必要な場合は、同HPをご確認下さい)

<最後に>

軽減税率制度については、「コンビニ・イートイン問題」など消費者にも混乱を招いています。

消費者以上に、納税する事業者が混乱を招くのは必至でしょう。

例えば、「消費税額を算定する場合、仕入れの消費税率は一律10%とする」等とすれば、仕分けの必要はなくなり、従来通りの方法で仕入合計に10%を掛け算定できるよう思われます。

初年度は8%と10%が混在しますが、それは5%から8%になった時にもあったことで、仕方がないよう思えます。

安易な例を示しましたが、「会計処理上の煩雑化を軽減する対策」を早急に考える必要があるものと思われます。