2020年6月4日
同性のパートナーを殺害された男性が、犯罪被害者の遺族への給付金が支給されなかったことに対して取り消しを求めた裁判で、名古屋地方裁判所は「共同生活をしている同性どうしの関係を、婚姻関係と同一視するだけの社会通念が形成されていない」として訴えを退けました。
愛知県の内山靖英さん(45)は平成26年、同居していたパートナーの男性を殺害され、犯罪被害者の遺族を対象にした給付金を県公安委員会に申請しましたが、認められませんでした。
給付金の対象には、「事実上の婚姻関係」だった人も含まれていて、裁判では、内山さんが「同性どうしでも事実上の婚姻関係だった」として、取り消しを求めたのに対して、愛知県は「制度は男女の婚姻関係を前提にしている」と反論していました。
4日の判決で、名古屋地方裁判所の角谷昌毅裁判長は「税金を財源にする以上、支給の範囲は社会通念によって決めるのが合理的だ」という判断を示しました。
そのうえで、「共同生活をしている同性どうしの関係に対する理解が浸透し、差別や偏見の解消に向けた動きは進んでいるが、婚姻の在り方との関係でどう位置づけるかについては、社会的な議論の途上にあり、婚姻関係と同一視するだけの社会通念が形成されていない」として訴えを退けました。
同性パートナーの法的な位置づけをめぐっては、浮気の慰謝料に関する裁判で、ことし3月、東京高等裁判所が「同性どうしでも男女の婚姻に準ずる関係にあった」として、元パートナーに慰謝料の支払いを命じる判決を言い渡しています。
出典:NHK NEWSWEB 同性パートナーへの支給認めず 遺族給付金訴訟で名古屋地裁
犯罪被害者の遺族への給付金とは、「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」に定められており、第一条にその目的が記されています。
第一条(目的)
この法律は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族又は重傷病を負い若しくは障害が残つた者の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害等を受けた者に対し犯罪被害者等給付金を支給し、及び当該犯罪行為の発生後速やかに、かつ、継続的に犯罪被害等を受けた者を援助するための措置を講じ、もつて犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とする。出典:電子政府の総合窓口 e-Govより
法律の目的からすれば原告である内山さんは、再び平穏な生活を営むことができるよう支援する対象となるものと思われます。
殺害されたパートナーの水野さんと20年間家族として一緒に暮らし、生計を共にしてきたとあります。
第5条では、給付を受けることができる遺族についての定めがあります。
第五条 遺族給付金の支給を受けることができる遺族は、犯罪被害者の死亡の時において、次の各号のいずれかに該当する者とする。
一 犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)
二 犯罪被害者の収入によつて生計を維持していた犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
三 前号に該当しない犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
出典:電子政府の総合窓口 e-Govより
いわゆる「内縁の妻」には支給されます。
愛知県は「制度は男女の婚姻関係を前提にしている」と反論していますが、内縁の妻が認められている以上、婚姻関係が前提の制度とは言えないでしょう。
「内縁の妻」と「同性のパートナー」の違いは何でしょう。
「内縁の妻」という表現が、事実上の婚姻関係と同様の事情にある者と感じさせますが、単に「異性のパートナー」に過ぎません。
「異性のパートナー」が支給対象で、「同性のパートナー」は支給対象外というのは、性差別とも思えます。
名古屋地裁は、
とし訴えを退けています。
社会通念が形成されているか?いないか?裁判所が本当に判断できるのでしょうか?
時代が昭和であれば、結婚するのが「あたり前」の時代であり、社会通念上と言われれば納得するかもしれません。
男性のおよそ4人に1人は、生涯未婚率からみて結婚しません。
結婚しても3組に1組は離婚する時代です。
ミドル世代の半数近くがシングルであり、結婚制度は崩壊したといってもいいでしょう。
またLGBTという言葉も、一般的に使われるようになり、地方自治体においては「パートナーシップ制度」が設けられている地域もあります。
社会通念とは、社会一般に通用している常識または見解です。
裁判では、一つの判断基準としてよく耳にする言葉ですが、社会通念が形成されていない根拠を示して欲しいものです。